(パータンジャラヨーガダルシャナ)
パタンジャリのヨーガ哲学
オリジナル テキスト原本(GITA PRESS出版 コード番号135)
オリジナル テキスト原本(GITA PRESS出版 コード番号135)
समाधिपाद 1
サマーディ パーダ1
*パーダ =章
अथ योगानुशासनम् ॥1॥
アタ ヨーガーヌシャーサナン
・अथ アタ
それでは
・योगानुशासनम् ヨーガーヌシャーサナン
ヨーガを説こう。
योगश्चित्तवृत्तिनिरोधः ॥2॥
ヨーガシュチッタヴリッティニローダハ
・चित्तवृत्तिनिरोधः チッタ ヴリッティ ニローダハ
心の働きが止滅することである。
チッタとは「心」のことをいいますが、インドの言葉に「心」を意味するものは沢山あり、チッタがもつ意味は「移り変わりやすい心の動き」そのものをさし、”優しい、几帳面、自尊心が高い”などの個々人の性格について意味しません。
ヴリッティ=心が物質や状態に反応して作用する様。心が反応して動く傾向。
ニローダ=止滅すること。
・योग: ヨーガハ
これがヨーガである。
तदा द्रष्टु: स्वरूपेऽवस्थानम् ॥3॥
タダー ドラシュトゥフ スワルーペアヴァスターナン
・तदा: タダーハ
そうなった時(=心の働きが止滅した時)
・द्रष्टु: ドラシュトゥフ
見る者は
見る者(ドラシュター)とは、“見ているだけ“の「純粋観照者」、「真我」、「本性」、のことをいいます。
・स्वरूपे スワルーペ
自分自身の本性に戻り
・अवस्थानम् アヴァスターナン
じっと とどまることになる。
वृत्तीसारूप्यमितरत्र ॥4॥
ヴリッティサールーピャミタラットラ
・इतरत्र イタラットラ
それ以外の時は(=心の働きが止滅していない時は)
・वृत्तीसारूप्यम् ヴリッティサールーピャン
心の動くままに、変化したものを見て、それが自分だと思う。
वृत्तयःपञ्चतयय्यः क्लिष्टाक्लिष्टा: ॥5॥
ヴリッタヤハ パンチャタェヤハ クリシュターアクリシュターハ
・वृत्तयः ヴリッタヤハ
心が働く状況は
・पञ्चतयय्यः パンチャタェヤハ
5種類ある。
・क्लिष्टाक्लिष्टा: クリシュター アクリシュターハ
(さらに)煩悩性のものと、非煩悩性のものとがある。
प्रमाणविपर्ययविकल्पनिद्रास्मृतय: ॥6॥
プラマーナ ヴィパルヤヤ ヴィカルパ ニドラー スムリタヤハ
・प्रमाण プラマーナ
正しい知識。信じるに値する知識。
・विपर्यय ヴィパルヤヤ
誤謬(ごびゅう)
・विकल्प ヴィカルパ
分別知
・निद्रा ニドラー
眠り
・स्मृति スムリティ
念(記憶)
(上記、心の作用5種類にそれぞれ煩悩性のものと非煩悩性のものに分類され、計10通りあります。)
प्रतियक्षानुमानागमा: प्रमाणानि॥7॥
プラティヤクシャーヌマーナーガマーハ プラマーナーニ
プラマーナ(正しい知識 証明 証拠)について、以下3つを述べています。プラマーナーニは複数形。
・प्रतियक्ष प्रमाण プラティヤクシャ プラマーナ
プラティヤクシャとは“眼前にある”、“可視的な”という意味から、見て経験したものをいう。瞑想で体験した知識も含まれる。
自分自身が直接経験した知識を“プラティヤクシャ プラマーナ”という。
自分自身が直接経験した知識を“プラティヤクシャ プラマーナ”という。
・अनुमान प्रमाण アヌマーナ プラマーナ
アヌマーナとは推論。すなわち、アヌマーナ プラマーナは“正しい推論”。
分析、予想、推論による知識であるジュニャーナヨーガ(ギャーン・ヨーガ)から得た知識もアヌマーナ プラマーナ。
分析、予想、推論による知識であるジュニャーナヨーガ(ギャーン・ヨーガ)から得た知識もアヌマーナ プラマーナ。
・आगम प्रमाण アーガマ プラマーナ
実際に体験はしていないが、多くの人が信じる聖典に基づく知識。ヴェーダ、仏典などの聖典、偉大な人物の言葉から得た知識。
विपर्ययो मिथ्याज्ञानमतद्रूपप्रतिष्ठम् ॥8॥
ヴィパルヤヨー ミッティヤーギャーナマタドゥルーパ プラティシュタン
・विपर्यय: ヴィパルヤヤハ
誤謬は
・अतद्रूपप्रतिष्ठम् アタドゥルーパプラティシュタン
真の性質に基づいていない
・मिथ्याज्ञानम् ミッティヤー ギャーナン
偽りの知識のことをいう。
例:暗闇で縄を見て蛇だと思う。真珠の母貝の一片を銀の一片と思う。
例:暗闇で縄を見て蛇だと思う。真珠の母貝の一片を銀の一片と思う。
शब्दज्ञानानुपाति वस्तुशून्यो विकल्प: ॥9॥
シャブダギャーナーヌパーティ ワストゥシューンヨー ヴィカルパハ
・शब्दज्ञानानुपाति シャブダジュニャーナーヌパーティ
言葉上だけの知識に基づいていて
・वस्तुशून्य: ワストゥシューンヤハ
(言葉だけが独り歩きしている)真実性をもたない言葉は
・विकल्प: ヴィカルパハ
言葉や概念の中だけでの心の働きである。
*仏教用語が意味する「分別智」のこともヴィカルパともいい、後のシュローカで出てきますが、この節では仏教用語の「分別智」ではなく、「言葉や概念の中だけの心の働き」のことをいいます。存在していない対象に対する分析やイマジネーションの世界。
अभावप्रत्ययालम्बना वृतिनिद्रा ॥10॥
アバーヴァ プラティヤヤーランバナー ヴリッティ ニドラー
・अभावप्रत्ययालम्बना アバーヴァ プラティヤヤーランバナー
空無に対して反応する
・वृत्ति: ヴリッティ
その心の働きは
・निद्रा ニドラー
眠りである。
【補足】
夢を見ていても見ていなくても、睡眠中にも休まずチッタ(心)は動き続けています。
他、瞑想が上達していない段階で、無知的な暗闇の中にいることに気づかず「“無”になった。瞑想に成功した」と思い込み、瞑想している状態もニドラーに含まれます。
अनुभूतविषयासम्प्रमोष: स्मृति: ॥11॥
アヌブータヴィシャヤー サンプラモーシャハ スムリティヒ
・अनुभूतविषयासम्प्रमोष: アヌブータヴィシャヤー サンプラモーシャハ
過去に経験したものが失われていない状態が
・स्मृति: スムリティヒ
記憶(念)である。
過去に経験した情報をもとに意図的に心に刻んだり行動に移そうとする場合、「念じる」といいますが、ここでは意識して念じるか念じないか関係なく、記録された記憶をすべて「念」とよんでいます。
अभ्यासवैराग्याभ्यां तन्निरोध:॥12॥
アビャーサ ヴァエラーギャービャーン タンニローダハ
・अभ्यासवैराग्याभ्यां アビャーサヴァエラーギャービャーン
修習と離欲によって
・तन्निरोध: タンニローダハ
それら心の働きは止滅される。
तत्र स्थितौ यत्नोभ्यास: ॥13॥
タトラ スティタォ ヤトノービャーサハ
・तत्र タトラ
その二つのうち(修習と離欲)
・स्थितौ スティタォ
(心が転変しないよう)一点に留まっているために
・यत्न: ヤタナハ
努力を要するものが
・अभ्यास: アビャーサハ
修習である
स तु दीर्घकालनैरन्तर्यसत्कारासेवितो दृढ़भूमि: ॥14॥
サ トゥ ディールガカーラナェランタルヤ
サトカーラー セーヴィトー ドゥリダブーミヒ
・तु トゥ
しかし
・स: サハ
それは(=修習)
・दीर्घकालनैरन्तर्यसत्कारासेवितो
ディールガカーラナェランタルヤサトカーラー セーヴィトー
ディールガカーラナェランタルヤサトカーラー セーヴィトー
長期にわたり、途絶えず、敬いながら取り組むことで
・दृढ़भूमि: ドゥリダ ブーミヒ
しっかりとした(ドゥリダ)土台(ブーミ)が完成する。
दृष्टानुश्रविकविषयवितृष्णस्य वशीकारसंज्ञा वैराग्यम् ॥15॥
ドゥリシュターヌ シュラヴィカ ヴィシャヤ ヴィトゥリシュナスヤ
ヴァシーカーラサンギャー ヴァエラーギャン
・दृष्टानु श्रविक विषय वितृष्णस्य
ドゥリシュターヌ シュラヴィカ ヴィシャヤ ヴィトゥリシュナスヤ
見たり、聞いたりした対象に対して、完全に欲を持たない心は
(*तृष्णा トゥリシュナーとは願望 期待。
接頭辞“वि” ヴィ と合わせ、ヴィトゥリシュナーとなると“欲を持たない”という意味)
・वैराग्य ヴァエラーギャ
それを離欲(捨)という
・पुरुष ख्याते: プルーシャキャーテーへ
तत्परं पुरुषख्यातेर्गुणवैतृष्ण्यम्
॥16॥
タトパラン プルシャキャーテールグナヴァェ トゥリシュニャン
・तत् タト
それは
・परम् パラン
至高(の離欲)である。
・पुरुष ख्याते: プルーシャキャーテーへ
プルシャ(真我)についての知を得た人であれば
・गुणवैतृष्ण्यम् グナヴァエ トゥリシュニャン
グナに対する愛着さえも消えていく
グナとは物質界から精神界まで、性質を大きく3つに分類したものです。
サットヴァ グナ(善性 建設的 調和 温和)
ラジャス グナ(動性 混乱 癇癪 激情)
タマス グナ(鈍性 破壊的 否定的 混沌 無秩序 無知 邪悪 暗闇 怠惰)
この3つのグナの性質を私たち個人も持ち合わせていて、この比率によって心の状態、正しい思考、人間関係が築かれます。ヨガへの探求が高まると人々はサットヴァ性の高い食事、友人、書物、住環境などを求めるようになります。素晴らしい師にめぐり合うきっかけにもなるでしょう。
ところが、サットヴァ性のもので自分を取り囲んでも、この割合が永久に保たれる保証はなく、そのバランスが崩れた時に居心地が悪くなることもありえます。これらグナでさえも心を惑わすマーヤー(幻)であることに気づくことでしょう。
ここでは「自分がプルシャ(真我)であることを知ったヨーギー(योगी 男性のヨーガ修行者)、ヨーギニー(योगिनी 女性のヨーガ修行者)は、これらのグナに愛着することなく、グナを超越したところの本源に心を合わせている、これが至上の離欲である」と述べています。
1章1節から1章16節までは 0分40秒から2分46秒にあります。